2022/02/05 04:16
「ロウ」rawとは英語で、生「き」のことを意味します。混じり気のない、本来の生命に加工や精製がされていないものの状態のことを指します。また、読み方が生「なま」になると、まだ十分でないさま、熟してないさまを表します。生野菜、生ビール、生たまご、生意気など、私たちの日常で「なま」という言葉は非常に頻繁に使われていますよね。
「ロウエッジ」とは、現代衣服の縫製用語の一つで、生地の端の処理を未完のまま終わらせるテクニックのことを意味します。いわゆる裁断でカットした生地をそのまま切りっ放しの状態で仕立てるということです。「ロウエッジ」をそのまま英語で直訳すると生のエッジ(端)となるように、「ロウエッジ」はここ十数年で新生的にイギリスやヨーロッパでコレクション展会しているファッションデザイナーたちに特に好まれているディテールでもあります。
通常、衣服の縫製工場などでは生地の端は、糸のほつれを防ぐためロックミシンのジグザグ処理がされていたり、ステッチの際立ったジーパンの縫い目に使用されているようなチェーンステッチの処理が施されることがは常識でした。ここ十数年、世界的にモードの流れは確実に変動し始め、「ロウエッジ」は正にこの変動の流れを象徴するかのようにして衣服の新しいディテールとして登場するようになりました。
「モードの死」とも言われている今日、過酷な低賃金労働を課せられている多くの工場のあからさまな現場情報がインターネットなどを通じて流れるようにもなり、大量生産で作られた衣服の質の悪さにもまた着目されるようになりました。そのため、工場生産される衣服と相反する声明を象徴するため、デザイナーのアトリエで作られた衣服には頻繁にこのような「ロウエッジ」を用いたデザインが展開されるようになりました。これは、工場のような既成の価値観を当たり前にしている縫製現場ではタブーとして扱われるような切りっ放しの生地の端が、デザイナーやアーティストの工房ではアヴァンギャルドでOKとされているからです。
現在、ハンドメイド製品のシンボルにもなっている「ロウエッジ」のデザイン展開は、MOMOZONO Arte della Sartoriaでも多く研究し使用されています。以前では切りっ放しの生地で邪魔者扱いされていていた糸のほつれは、意外にも洗濯すればするほど味のある輪郭を衣服に生み出すスパイスになり、衣服自体のスピリットに独特のやわらかいキャラクターを付け加えます。
1990年代からモード界に新しい流れを作ったマルタン・マルジェラやドリス・ヴァン・ノッテンなどの「アントワープ6人」たちが展開した、クラシックファッションの脱構築的哲学は、細かな衣服のディテールなどに現在でも強く影響を与えています。
常に、既成の価値観を変えることが可能なファッションの今後の展開に、商業的だけでなく人類学的にも注目して行きたいです。
MOMOZONO Arte della Sartoria